Blog映画に関する腑に落ちる話

「カンヌ映画祭の実像と4つのトリビア」~映画に関する腑に落ちる話(5)

これから書くことは、カンヌに毎年行っている配給関係者、映画祭関係者にとっては当たり前の話である。そして私が訪れたのは03年、05年~08年の5回にすぎない。すでに、状況が変わっていることも、あるかもしれないという前提で、読んでほしい。また、他の話題よりも、カンヌを優先したのは、「プレゼンのエピソード集」で三浦史子さんのリクエストに応えた結果である。

カンヌ映画祭は、1946年フランス南部コートダジュール、地中海の小さな漁村だったカンヌで始まった。ベネチア映画祭が、ムッソリーニのよって開始されたことに対抗し、自由主義国の映画祭として戦前に準備したが開催できず、46年開始となった。ベルリン、ベネチアと共に、「世界3大映画祭」とよく言われるが、世界の映画人の多くはカンヌが最高峰だと思っている。通常、5月中旬に12日間開催される。

一般的なアクセスは、南仏ニース経由カンヌだ。ニース空港は国際空港で、各国の航空会社のフライトがあり、日本から1回乗り換えで到着する。空港からカンヌまでシャトルバスがある他、ニース駅からカンヌ駅まで電車かバスでも1時間くらいで行ける。

トリビア1、映画祭にストライキをぶつける
03年初めて映画祭に参加した時は、カンヌに宿がとれず、ニースから通った。そこにフランスらしい事が起こる。わずか5日間に間に、普通電車とTGVのそれぞれストライキがあった。当然、日を変えて、バスのストライキもある。エールフランスでは、機内食の会社がストライキをする。カンヌ映画祭に併せて実施する。当時は毎年の恒例行事のようだった。日本ではもう交通機関のストライキを見かけないが、労働者の権利の行使である。誰も文句を言わない。

 

トリビア2、ホテルが高騰し5日以上の予約
リゾート地なので、ホテルの数は多い。フランスの市中ホテルは、一般的に古く、狭く、少し高い。日本のビジネスホテルよりも部屋の割に高い印象を受ける。重い荷物でも階段を自力で上げることが普通で、エレベータがあっても、自分とスーツケースしか乗らない「怖い」ものも多い。カンヌ映画祭の期間中、価格が跳ね上がる。1泊15,000円が4万円になる。そして、1泊では受け付けず、5泊以上となるので20万を超える。配給会社などは、同じ部屋を人員交代で使用する。
05年、早めにカンヌ市内ホテルをチェックしたが、満室もしくは高額で予約できなかった。仕方がないので、カンヌに隣接するMouginsでし、Bal de Mouginsというビジネスホテルを見つけた。1日15,000円である。それから毎年ここに滞在した。因みに、朝食はパンとオレンジジュースとコーヒーで7ユーロ。当時1ユーロが140円、少し高めなので、2泊目からは自前にした。

ムージョンと言う町は、丘の上に作られた「玉ねぎ」形の城塞都市である。昔、ピカソも住んでいたと言う静かなところだ。「玉ねぎ」の一番外側に小さな商店街があり、ホテルがある。そこのバス停からカンヌ駅まで約20分だ。バスは狭い道を時速60kmで走る。つかまっていないと危ない。

 

トリビア3、世界から国際マーケットに集まる
カンヌ映画祭というと「レッドカーペット」の上で監督と俳優が手を振るイメージだろう。そこは、Parais(パレ)と呼ばれるコンペティション作品の公式上映劇場だ。観客が同じ絨毯を踏んで全員入場した後、ゲストが映画祭が用意したルノーから降りて、カメラの放列の中、ゆったり進むという演出だ。
このコンペ作品を含め、映画祭本体が上映する映画は、100作品程度である。実は、この映画祭に世界中から人が集まる理由は、映画の売買にある。パレの裏側のMarcheには、作品を売る数多くの会社がブースを出している。会場には、10以上の試写室があり、朝から夜まで上映を続ける。期間中、何と600本だ。バイヤーは日程を見て、興味のある作品を見るが、面白くないと判断すると、立ち上がって次の試写室に向かう。上映開始から10分、バタン、バタンとイスが音を立てる時間だ。最後まで見たら私だけということがよくあった。映画祭会場の近くの高級ホテルの部屋は、アメリカ・ハリウッド関係会社が期間中抑えていて、毎日商談が行われる。ボールルームでは、様々な主催者によるパーティが頻繁に開催される。警備は映画祭会場だけでなく、ホテルの入り口でも厳しい。

 

トリビア4、売っていないチケットとうるさいドレスコード
カンヌ映画祭に参加するには、事前に登録が必要だ。ネットで必要事項を記入するのだが、プレスではないので、参加要件は映画関係者でなければならない。私は当時、全国フィルム・コミッション連絡協議会の専務理事で、組織の英語サイトもあったので、何の問題もなかった。わが妻は某大学の教授という肩書でレジストレーションしたが、「リヒューズ」された。映画関係者でないという理由である。結局、私の西・伊の言語通訳ということにして認められた。登録料は、一人約4万円である。
カンヌ映画祭には、一般向け映画チケットが存在しない(今は「シネフィル」登録者は買えると聞いたが、定かでない)。一般の人は、上映会場から出てくる人に、「この作品のチケットください」とねだるしかない。チケットは、自分のID番号を入れて、空きがあれば発券される。
チケットはエリア別自由席で、オーケストラは1F、バルコンが2Fである。そこにはドレスコードがあり、夜の上映は基本的にTAXIDOだ。このために日本でタクシードを作り持って行った。正装して妻とパレに向かう間、カメラマンが寄ってきて、フラッシュをたき、名刺をくれる。翌日、そこに行くと写真を売っているという寸法だ。
カンヌ映画祭は、登録、チケット、バイヤー優遇など、他の国際映画祭とかなり異なる運営をしている。業界の人は、「カンヌはしんどいので行きたくはないが、行かざるを得ない」という。毎日の商談で疲れ果てるようだ。私には商談がないのでどんなに楽だったことか。

3 comment
  1. たいへん興味深く拝読いたしました。
    一般人にとって貴重なエピソードばかりですね。
    TVなどではレッドカーペットのきらびやかな場面しか観たことがなかったのですが、やはりさまざまな裏事情があるのですね。
    デモをカンヌにぶつけてくるとは、いかにもフランスらしい。機内食の無い長時間フライトって想像がつきませんが。
    また、海外の観光地によくいる商魂たくましい写真屋さんがカンヌにもいたとは!
    カンヌ映画祭自体が映画になりそうですね(すでにそういう映画がありそうですが)。

    たとえ会場には入れなくても、その雰囲気を味わうために行ってみたくなりました笑
    実際にそういう映画ファンもたくさん駆けつけているのでしょうね。
    いろんな意味で、カンヌはやはり華がありますね。
    Mouginsという城塞都市も気になります。南仏には蜂の巣村が多そうですね。

    いろいろと妄想が広がりました。ありがとうございました。

  2. なるほど、映画祭っていうのは、映画の見本市という側面があるのですね。そういえば、先日観た映画は、冒頭のほうがまるで予告編みたいで、後から出てくる印象的なシーンを継ぎ合わせて見せていたのですが、新人監督の映画だったので、カンヌのような場でバイヤーに10分で席を立たれないように、そういうつくりになっていたのかな…。それなら、小さな画面でいいから、一人ひとり、早送りとかしながら観れたほうがいいような…。ところで、カンヌのお話もおもしろかったですけれど、私がリクエストに書いたのはエストニアでした。そちらも興味があります。

    1. 三浦さま。
      文中で、リクエストされた2人のお名前を取り違えました。
      リクエストされたガラパゴスについては、「世界で感じる事実の断片」のカテゴリーにあります。

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