Blog映画に関する腑に落ちる話

「若松孝二監督よ、永遠なれ」~映画に関する腑に落ちる話(1)

今回から、私がお会いした映画人、印象的な国内外の映画祭、世界の映画スタジオ・映画館など、具体的な記憶をシリーズ「映画に関する腑に落ちる話で綴る。

私が入院した10月17日は、実は若松孝二監督の命日だった。4年前の10月12日、この病院からわずか5分、外苑西通りを横断しようとしてタクシーにはねられ、5日後に息を引き取った。改めてすごく近い何か感じる。青山葬儀場にお通夜には、授業の関係で30分遅刻したが、成田裕介監督に案内され、光栄にも最前列の崔洋一監督の隣の席をあてがわれ、目の前の遺影にお別れできた。

私が監督と出会ったのは、映画プリントを借りに行った19歳の時だった。以来40年余、様々な場面で縁を深めた。とりわけ、「実録・連合赤軍あさま山荘への道程」が思い出深い。ある時、監督から突然電話で「大菩薩峠・福ちゃん荘で撮影するので、エキストラ50人何とかならないか」とお願いされた。いつもこんな感じだ。すでに地元甲州市役所の協力を取り付けてあり、私は学生を数名連れていった。福ちゃん荘は、実際に赤軍派50人が全員逮捕された場所で、この挫折が連合赤軍発足のきっかけとなった。撮影では、エキストラはある時は赤軍派、ある時は機動隊と両方を演じた。実に合理的である。

完成試写は調布の東京現像所。リンチシーンが長いと相当切ったという本編はそれでも3時間10分もあった。全編通して緊張感あふれ、一気に過ぎていった。あさま山荘シーンは監督自身の別荘を使用したことは有名な話である。ご祝儀袋を監督に手渡すと、「義理堅いのは、前澤ちゃんと崔(洋一監督)だけだよ」とつぶやいた。

08年2月、ベルリン国際映画祭で最優秀アジア賞などを獲得した。上映会場で待っていると、ドアが開き監督が姿を現した途端、私に抱きついてきた。「この映画は、フィルムコミッションの協力なくしてできなかった。今まで俺の映画に県庁が協力するなんてあり得なかった」と感激した様子だった。

私たち夫婦をホテルの自室に案内し、深夜まで楽しい時間をいただいた。「山田洋二監督の「母べい」がコンペ出品になり、松竹が記者を連れてきてたんだが、受賞し損ねて記事がなかったので、俺の受賞が大きなネタになったんだ。俺は1人も記者なんか招待してないからね」といかにもうれしそうだった。

1965年、監督の作品「壁の中の秘事」がこの映画祭で上映決定した時、日本の映画業界とマスコミは「国辱映画だ」と上映中止を迫ったこともあった。それから43年後、リベンジを果たしたと感慨深い様子だった。

監督は映画祭の後、子どもたちにプレゼントを届けるためにパレスチナに向かった。もうずいぶん前から恒例行事となっている。

その後、電話をもらったり、お会いしたりしていたが、2度のがんを克服、70歳を超えて、次々に新作を発表していた監督に突然終わりが訪れた。本当に残念である。素晴らしい時間、ありがとうございました。合掌。

写真は、08年ベルリン映画祭フォーラム部門上映会場前で若松監督とツーショット

 

3 comment
  1. 3Dではお世話になりました、そしてご無沙汰してます、ブログ楽しく拝見しております。若松監督とはお会いしたことがないのですが、弊社から「飛ぶは天国もぐるが地獄」のVHSを発売させていただきました。
    是非、監督とはお会いしたかったなあ。
    治療頑張ってください!

  2. 布施さま。3Dはもう20年以上も前のことですね。コメントありがとうございました。
    「飛ぶは天国もぐるが地獄」は、若松さんらしい作品です。色調が少し飛んでいる感じはしませんか。
    この作品はビデオで撮影していて、ある時、監督からフィルムの変換できないかと相談がありました。
    フィルム変換は、スイスで格安でも300万円かかり、日本では当時600万円以上しました。
    いつもお金が安い方がいいと思っている監督は、画面再撮はだめかと聞かれたので、スクリーン再撮を提案をしました。
    東宝スタジオの外に、丸文というメーカーのシアターがあり、当時最も明るいプロジェクターを展示していました。
    事前にテスト撮影を行い、OKということになり、本編全体をスクリーン投影して、35mmフィルムカメラで撮影したものです。
    そんなことを思い出しました。

  3. 3Dはもう20年以上も前でしたね、昨日、久しぶりに中島さんと会いました。
    当時、鶴見のファクトリーで、吉川晃司さんの3Dライブの中継が終了し、前澤さんが「今度は4Dで!」と言われて別れたのを懐かしく思い出しました。
    4Dではないですが、今、3DVRに取り組みはじめ、新たな可能性に少しワクワクしてます。

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